仙台高等裁判所秋田支部 昭和56年(ラ)29号 決定 1982年5月19日
執行人(所有者)
栗原ミツ
相手方(債権者)
株式会社アポロリース
右代表者
安藤彰
主文
本件抗告を却下する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消し、さらに相当の裁判を求める」というものであり、その理由は、「抗告人は本件不動産の所有者であるが、本件不動産に抵当権を設定した事実はない。なるほど本件不動産には抵当権者を相手方とする抵当権設定登記が経由されているが、これは橋本直美なる女性が抗告人になりすまし、相手方との間に本件不動産につき抵当権設定契約を締結したうえ、その旨の登記申請に及んだものであつて、本件競売申立は実体の伴わない無効な抵当権に基づいてなされたものであるから、本件売却許可決定は取り消されるべきものである」というものである。
よつて検討するに民事執行法のもとにおける執行抗告は特に法が定めた場合に限り認められるのであるが、本件のように担保権の実行としての不動産競売事件の場合、同法第一八八条により準用される同法第七四条によれば、不動産売却許可決定に対する執行抗告は、「同法第七一条各号に掲げる事由があること」又は「売却許可決定の手続に重大な誤りがあること」をその理由とすべきものである。しかして競売手続の基本たる抵当権の無効という実体上の事由を理由とする場合、これを同法第七一条第一号の「(強制)競売の手続の開始又は続行をすべきでないこと」に該ると解する余地もないではないが、法が執行機関の行為に対する不服申立を原則として手続上の瑕疵を理由とする場合にのみ許し、担保権実行による不動産競売の場合、特則をもつて競売開始決定に対し担保権の不存在又は消滅を理由とする執行異議を認めた趣旨に鑑みれば、右第七一条第一号に該当するのは、同法第一八一条所定の文書の提出がないのに不動産競売手続の開始がなされ、或いは同法第一八三条第一項に掲げる文書が提出されているにも拘らず売却許可決定がなされた如き場合をいうものであつて、抵当権の無効という実体上の事由は右の条号に該当しないものと解するほかはない。
それゆえ抗告人の本件申立は不適法であつて、抗告人としては、抵当権不存在(無効)確認の訴を本訴とする抵当権の実行停止の仮処分を申請する等の方法により自らの救済を図るべきである。
(なお売却許可決定に対し実体上の事由を理由として執行抗告をなし得るとの見解に立つても、担保権の存在を証する法定文書には推定力が認められるべきで、執行裁判所が右文書に基づき抵当権の存在を認めた以上、抗告審においては右の認定を覆すに足りるだけの資料の提出を要するものと思料されるのであるが、本件において原審の認定を覆すに足りるだけの資料は記録上窺うことはできず、本件申立は理由がない。)
(伊藤和男 武藤冬士己 武田多喜子)